吉野家498円、すき家480円、松屋480円——牛丼が500円の手前に並ぶのは、なぜ業界のリスクなのか

10月13日、松屋が牛めし並盛を480円に上げ、牛丼3社の並盛が500円の手前に並びました。去年の価格感度調査では500円まで上げられたのに、各社はなぜ手前で止めたのか。購入頻度の視点と、3社が揃って500円以下に居続けるリスクを、価格の専門家が解説します。
高橋嘉尋 2026.10.16
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10月13日、松屋が牛めし並盛を460円から480円に上げました。すき家の並盛は7月に480円へ戻っており、吉野家は498円のまま。3社の並盛が、500円の手前に並びました。

ちょうど1年半前、吉野家と松屋が春の改定をしたとき、私は両社の並盛について価格感度調査を行い、プレジデントオンラインに書きました。調査では、どちらも500円まで上げられる結果が出ていました。それでも両社は500円の手前で止めた。1年たって各社がまた動いたので、去年の判断と今年の動きの差分を見ます。

この記事では、牛丼チェーンの会社名を吉野家・すき家・松屋、商品は3社とも「並盛」と呼びます(松屋の商品名は牛めしです)。

この記事の結論

・去年の調査では、吉野家は540円まで上げても顧客数の減少は2%、松屋は500円でも売上が16%増える計算だった。それでも両社は500円の手前に止めた

・止めたのは、500円という線を強く意識した結果だと思います。ただし調査を購入頻度で見ると、500円を越えると人数で約10%が「検討できない」。頻度の高い層は残るので数量は減らないが、来店頻度の低い層が抜け、客層が偏る。越えなかった判断は、結果として間違いではなかった

・1年たって、すき家と松屋は480円に上げ、吉野家は据え置き。3社が500円の手前に並ぶと「牛丼は500円以下」が相場として固まり、次のコスト増で越えにくくなる

・業界には、誰かが早く500円を越え、小刻みに上げ続けることが要る。会員限定パートで、購入頻度を入れた値段の決め方と、小刻みに上げる設計を解説します

去年:500円まで上げられたのに、手前で止めた

2025年春の改定で、吉野家は並盛498円を据え置き、大盛以上と定食だけを上げました。松屋は並盛を430円から460円に上げました。

このとき私たちが行った価格感度調査では、松屋は並盛を460〜500円に上げても顧客数の減少は1.3%、数量の減少は0.4%で、売上は460円なら6.6%、500円なら15.9%増える計算でした。吉野家は540円まで上げても顧客数の減少は2.2%でした。

数字だけ見れば、両社とも500円まで上げてよかった。それでも松屋は460円、吉野家は498円で止めました。松屋が同時に導入した深夜料金7%を乗せても、並盛は492円。吉野家の498円を越えないように設計されていました。両社とも「500円を越えない」ことを強く意識していた、というのが去年の私の読みです。

500円を意識した判断は、購入頻度で見ると間違いではなかった

吉野家の調査には、もう1つの数字がありました。500円を越えると、約10%の人が「購入を検討できない」と答えたのです。顧客数の減少2.2%とは差があります。

差が出るのは、離れる人の多くが来店頻度の低い層だからです。牛丼の数量は、週に何度も来る頻度の高い層が支えています。この層は500円を少し越えても来店を続けるので、数量はほとんど落ちず、売上は上がる。一方で、たまに来る層は検討から外れます。

つまり500円を越えても、数量と売上は増えます。減るのは、来店頻度の低い層の人数です。この層が抜けると顧客はヘビーユーザーに偏り、新しい顧客が入ってくる入口が狭くなります。

吉野家がここまで見て498円に止めたとは、私は思っていません。購入頻度まで入れた分析をしている会社は国内にほぼなく、吉野家の判断は「500円を越えない」という線を強く意識した結果だろうと思います。ただ、蓋を開けてみれば、498円は全ての層が購入検討に乗る値段でした。500円を越えなかった判断は、結果として間違いではなかったと言えます。

今年:2社が480円に上げ、3社が500円の手前に並んだ

1年たって、すき家が7月に450円から480円へ、松屋が10月に460円から480円へ上げました。吉野家は498円のままです。

この1年、米も牛肉も上がり、外食全体の値上げが続きました。顧客が「牛丼はこのくらい」と思う基準の値段も、去年より上がっている可能性があります。去年の調査で500円まで上げられたのなら、今年は余地がさらに広がっていたはずで、2社は客数が落ちないと踏んで上げたのだと思います。実際、松屋は去年の値上げ後も客数102%・客単価110%、吉野家は据え置きで客数99.7%・客単価107.6%と、どちらも値上げ分が売上に残りました。

それでも、3社とも500円は越えませんでした。すき家と松屋は480円で揃い、吉野家は498円。3社の並盛が500円の手前に並んだのが、今年の状態です。

ここに、業界としてのリスクがあると私は考えています。並盛が全社500円以下で揃うと、顧客は「牛丼の相場は500円以下」と覚えます。500円はきりがよく、記憶に残りやすい。覚えられた相場は、次にコストが上がったときの値上げの基準になり、3社とも越えるのが重くなります。

では、なぜ誰かが早く500円を越えたほうがよいのか、自社の値段をどう決め、どう上げ続ければよいのかを解説します。

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続きは、2081文字あります。
  • 揃って手前にいる時間が長いほど、越えるのは重くなる
  • 自社の値段を、購入頻度を入れて決める
  • 小刻みに上げ続ける
  • 自社で値段を上げ続けるときの手順
  • まとめ

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