『BCGプライシング戦略』から学ぶ①——7つの価格の決め方とは

価格の根拠はコスト・競合・価値の3つ。BCGはそれを市場の構造で7つの「ゲーム」に分けました。本が書いていること・書いていないことを切り分け、どの市場の会社にも当てはまる学びを2つにまとめます。
高橋嘉尋 2026.10.19
読者限定

今回はいつものニュース解説とは違い、プライシングの本を1冊取り上げて、そこから学べることを書いてみます。取り上げる本は『BCGプライシング戦略』(ジャン=マヌエル・イザレ、アーナブ・シンハ著、東洋経済新報社)です。著者の2人は、ボストン コンサルティング グループでプライシングの部門を率いてきたコンサルタントです。

この本の中核は、価格の決め方を市場の構造から7つの型に分けた枠組みです。本はこの型を「プライシング・ゲーム」と呼びます。この記事は、BCGが何を言っているかを伝える記事です。私たちの見方は、会員限定パートで分けて書きます。本の用語には英語の名前が多いので、初めて出るところで意味を添えます。

この記事の結論

・BCGは、価格の根拠をコスト・競合・価値の3つに分け、どれか1つでは価格は決まらないと言います

・そのうえで、3つの根拠をそれぞれ軸にする決め方が3つ、2つの根拠を重ねた視点を軸にする決め方が3つ、3つ全部を重ねる決め方が1つ、合わせて7つの「ゲーム」に整理しています

・どのゲームが合うかは、買い手の集中度・売り手の集中度・商品の差別化度という市場の構造で決まる、というのがBCGの見方です

・ゲームごとに価格へ落とし込む手法も、本は骨子を示しています。価値の積み上げ、弾力性の測定、コスト構造の把握、交渉の盤面、値引きの公式、品揃えの設計、需給の予測です

・日本版の監修者は「日本では、市場の特性に関わらずコストで決める企業が多い」と注記しています。会員限定パートで、本が示すゲームの選び方と、本に書かれていること・書かれていないこと、そこから言えることを書きます

BCGは「価格の根拠は3つあり、1つでは決まらない」と言う

本はまず、価格の根拠をコスト・競合・価値の3つに分けます。そして、どれか1つで決めようとすると答えが出ない、と言います。

本が使う例はカップケーキの店です。変動費が1個1ドル、固定費が2万5千ドル。コストに粗利50%を乗せると1個2ドルになります。近隣の3店は1.75〜1.99ドルで売っているので、競合に合わせるなら1.75ドル。顧客に聞くと、2〜2.5ドルまで払うという答えが返ってきます。3つの根拠が、3つの違う値段を出す。本はここから、根拠を1つに絞るのではなく重ね合わせる、という考え方に進みます(p.46-47)。

つまり本の整理は、根拠が3つ、根拠を重ね合わせた視点が4つ、合わせて7つです。この7つが、次に出てくる7つのゲームに1つずつ対応しています(p.49-51)。

3つの根拠と4つの視点を、それぞれ軸にした7つのゲーム

BCGは、7つのうちどれを軸にするかは「自社が選ぶのではなく、市場の構造で決まる」と言います。構造は3つの軸で見ます。買い手は集中しているか分散しているか、売り手は集中しているか分散しているか、商品は差別化されているかコモディティか。この組み合わせに合う軸を1つずつ当てたのが、7つのゲームです(図1、p.61-69)。順に説明します。本が挙げている事例の業界も添えます。

根拠をそのまま軸にする3つ

  • バリュー(価値)・ゲーム。顧客が感じる価値を軸に決めます。商品に独自性があって代替品がほぼなく、買い手は多数で分散している市場です。売り手は少なく、特許や圧倒的な価値で準独占になることもあります。本の例はアップルです

  • コスト・ゲーム。原価に利益を乗せて決めます。商品がコモディティで変動費の比率が高く、売り手は分散していて、買い手は大口で交渉力が強い市場です。本の例は道路工事の建設会社です

  • カスタマイズ(個別対応)・ゲーム。競合の価格を軸に決めます。買い手の規模がばらばらで、案件ごとにオプションや取引条件が違い、値引きで差をつける市場です。売り手は少数に集約されています。本の例はトラックメーカーです

2つの根拠を重ねた視点を軸にする3つ

  • ユニフォーム(一律価格)・ゲーム。コストと価値が重なるところ、価格弾力性を軸に決めます。買い手が多数で似たニーズを持ち、売り手も多数で同規模、商品は似通っている市場です。全員に同じ値段で売るので、値段を動かしたときに数量がどう反応するかで決めます。本の例は食品ブランドです

  • チョイス(選択肢)・ゲーム。競合と価値が重なるところ、価格区分(松竹梅やサイズ違いの段)を軸に決めます。顧客のニーズが多様で、限界費用(1つ多く売るときに増える費用)が低いので、松竹梅の品揃えを作れる市場です。売り手は少数です。本の例はスターバックスです

  • パワー(力関係)・ゲーム。コストと競合が重なるところ、ゲーム理論(自社が動いたら競合がどう反応するかを読むこと)を軸に決めます。買い手も売り手も少数で、技術規格が決まっているので商品の差が小さい市場です。1件の商談の結果が市場全体を動かします。本の例はハードディスクのメーカーです

3つ全部を重ねる1つ

  • ダイナミック(変動価格)・ゲーム。3つ全部が重なるところ、需要と供給を軸に決めます。在庫が日持ちしない、または需要が大きく変動する市場で、あらゆる根拠を同時に使って値段を動かします。本の例は航空会社です

本は、この分類を「幅を示しただけで、絶対的なものではない」と断っています(p.71)。1社が2つのゲームの境界にいることも、事業ごとに違うゲームをしていることもある、という扱いです。

ゲームごとに、価格へどう落とすか——本が書いている骨子

ゲームが決まったあと、実際の価格にどう落とすのか。本は第7〜13章で、ゲームごとに1章ずつ手法を書いています。各章の要点だけを並べます。

  • バリュー(価値):自社の商品を使うと顧客が得る価値を、代替品と比べて金額にする(機能的な価値と情緒的な価値を積む「バリューラダー」)。そのうちどれだけを顧客側に残すかを、浸透を急ぐか利益率を取るかの戦略目標で決める(p.128)

  • ユニフォーム(一律価格):通常時と販促時の価格弾力性を細かく測り、値段を変えたときの数量と利益をモデル化して、利益が最大になる値段を把握する(p.144)

  • コスト:規模・経験・複雑性でコスト構造を把握し、コストの発生要因に合わせて課金の単位を選び、競争の激しさに応じて上乗せ率を調整する(p.158-159)

  • パワー(力関係):顧客×商品ごとの利益率とシェアを盤面(チェス盤)に描いて、自社に有利な非対称を見つけ、交渉計画を立てる。価格表の一貫性は「プライシング・グリッド」で保つ(p.173-174)

  • カスタマイズ(個別対応):取引ごとの目標価格を公式で決める。基本は数量に応じた値引きの線(自然数量傾斜)で、実際の値引きとの差を営業の裁量として管理する。コストの変動は別建ての追加料金で切り離す(p.189)

  • チョイス(選択肢):顧客をニーズで分け、松竹梅やサイズ展開の商品体系を顧客が感じる価値に合わせて設計し、行動科学(おとり、アンカー)で選択を導く(p.205)

  • ダイナミック(変動価格):コスト・需要・供給の実データで需給予測のモデルを作り、価格を自動で動かす。公正さの説明と人の関与を残す(p.218)

いずれも、手法の名前と手順の骨子までです。弾力性をどう測るか、価値をどう金額にするか、という数字の出し方は、本では概要にとどまります。

日本企業の多くは、市場に関わらずコストで決めている

日本版には監修者の注があり、そこにこう書かれています。日本では、コスト・ゲームの特性を持たない市場でも、コストベースで価格を決める企業が多いのが実情だ、と(p.147)。

この背景は、本には書かれていないので、私の補足です。日本の企業がコストで決める習慣は、高度経済成長期にさかのぼります。作れば売れた時代には、原価に必要な利益を乗せれば、その値段で売れました。この決め方が製造業を中心に根付き、その後の長いデフレでは値上げの機会そのものがなかったので、価格を決める力が鍛えられないまま今に至っています。監修者もあとがきで、日本企業は「プライシング筋力」が鍛えられておらず、価格を担当する部門が明確に存在しないことも多い、と書いています(p.329)。

ただ、この数年で状況は変わりました。原材料と人件費の高騰を、原価の積み上げだけでは吸収できなくなったこと。そして各社が差別化を図るようになり、価値を根拠にした価格の決め方が、より求められるようになったことです。

では、BCGの言う「自社のゲーム」をどう選ぶのか。本に書かれていること・書かれていないことを切り分けて、会員限定パートで解説します。

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続きは、2643文字あります。
  • BCGが示す、自社のゲームの選び方
  • BCGが示す、分類の使い方——今の決め方とのずれを見る
  • 本に書かれていること、書かれていないこと
  • この本から言えること
  • まとめ

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