スターバックスラテは、2022年に測った「500円の壁」をなぜ越えられたのか——アンケートで値段を1点に決める方法
10月9日、スターバックスはドリンクとフードの価格を改定しました。スターバックス ラテのトールサイズは、店内税込で500円から515円です。
スターバックスラテの値上げは、これが初めてではありません。2022年4月には、418円から455円に上がっています。私たちはそのとき、全国のスターバックス利用者318名にアンケートを取り、値段ごとに顧客数と売上がどう動くかを推計しました。結果はこうでした。

450円か460円なら、顧客は2.7%減るが、売上は4.7〜7.0%増える
500円まで上げると、売上は7.1%増えるが、顧客の10.4%が離れる
顧客をほとんど減らさずに売上を伸ばせる値段は450〜460円。スターバックスが実際に付けたのは、そのあいだの455円でした。
先に断っておくと、スターバックスがこの方法で値段を決めたのかどうかは分かりません。分かっているのは、私たちが同じ時期に外から測った推計の答えと、スターバックスの値段が一致していた、ということだけです。それでも、この一致には意味があります。顧客に4つの質問をするだけで、企業が内側の情報で決めた値段を、外からほぼ言い当てられるからです。
余談ですが、この推計には引っかかる点が1つあります。450円でも460円でも、離れる顧客は2.7%で同じです。顧客が変わらないなら、460円にしない理由はありません。5円の差は、原価が変わらないのでそのまま粗利です。スターバックスラテが年間に何杯出ているかは公表されていませんが、仮に1億杯なら5億円、10億杯なら50億円の粗利が、455円で止めたことで残っている計算になります。
なぜ455円だったのか。これは神のみぞ知るところです。ただ、よく使われるPSM分析の「交点」から「450〜460円」という幅が出て、その真ん中を取った、と考えると辻褄は合います。同じアンケートを、交点ではなく回答者ひとりずつ数えて線にしていれば、答えは幅ではなく点で出ます。そのときは、460円にしない理由がありません。455円という絶妙な値段は、幅で決めた痕跡なのかもしれません。
私たちが使った4つの質問は、PSM分析のアンケートと同じものです。ただし、交点を見る一般的な読み方では、この答えは出てきません。プライシングを専門とする立場から、同じアンケートからどうやって値段を1点に決めるのか、そして2022年に「壁」と出た500円を、2026年のスターバックスがなぜ越えられたのかを解剖します。
この記事の結論
・PSM分析の「交点」には、値段の答えとしての根拠がない。しかも答えが幅で出るため、意思決定に使えない
・同じ4問を、回答者ひとりずつ「この値段なら買えるか」で数え直せば、値段ごとの顧客数と売上が線になり、答えが点で出る。2022年のスターバックスラテは、460円までは顧客がほぼ減らず、500円で急に減った。455円はその「壁」の手前
・壁は固定ではない。値上げを重ねるごとに顧客の「今の価格」が動き、壁も動く。だから測るのは一度ではない。手順の全部と、自社で回すときの勘所を限定パートで解説
「いくらなら買いますか」と聞いてはいけない
値段を決めるために顧客に聞くとき、いちばん素直な聞き方は「この商品、いくらなら買いますか」です。ところが、この聞き方で集まる金額は、実際に払う額より低く出ます。値段を聞かれた顧客は、交渉のつもりで低めに答えるからです。
この癖を避けるのがPSM分析(価格感度測定法)です。1976年にオランダの経済学者ヴァン・ウェステンドルプが考案しました。いくらなら買うかを直接は聞かず、次の4問で値段への感覚を聞きます。
① 高いと感じ始める金額
② 安いと感じ始める金額
③ これ以上高いと検討に乗らない金額
④ これ以上安いと品質や効果に不安を感じる金額
回答を累積の線にすると、4本の線が交わります。その交点に「理想価格」「妥協価格」「最高価格」「最低品質保証価格」という名前がついていて、交点を値段の目安にするのが一般的な使い方です。
交点は、値段の答えにならない
ところが、この交点が値段の正解を指すという根拠は、学術的にも示されていません。
「最高価格」より高くても検討に乗る顧客はいますし、「最低品質保証価格」より安くても品質を疑わない顧客はいます。「理想価格」にしても、本来、顧客が最も多くなるのは「高すぎる」と「安すぎる」と答えた人の合計が最も少ない値段です。それが2本の線の交点と一致する保証はありません。
しかも、交点から出てくる答えは「この範囲なら受け入れられる」という幅です。社内外に説明が必要な値段の意思決定で、「このあたりなら大丈夫そうです」は根拠として力不足でしょう。
同じ4問で、答えを「点」にする
そこで私たちは、交点を見ません。同じ4問の回答から、値段ごとに「何%の顧客が買えるか」と「そのとき売上はいくらか」を推計します。これを私たちは「購買ポテンシャル推計」と呼んでいます。
考え方は単純です。回答者ひとりずつ、③「これ以上高いと検討に乗らない金額」と④「これ以上安いと不安になる金額」を見ます。ある値段がこの2つのあいだに入っていれば、その人はその値段で「買える」と数えます。全員分を値段ごとに数えれば、値段ごとの購買率の線が引けます。それに値段を掛ければ、売上の線になります。

こうして引いた線には、PSM分析の交点にはない情報が3つあります。
顧客数が最大になる値段と、売上が最大になる値段が、それぞれ1点で出る
冒頭のスターバックスのように、「顧客をほとんど減らさずに売上を伸ばせる値段」が読める
ある値段を越えると顧客が急に減る、壁の位置が分かる
スターバックスラテの2022年の推計を、418円を100として並べ直すとこうなります。

460円までは顧客数が97で止まっていて、500円で90に落ちます。壁は500円の手前にあり、455円はその内側でした。
では、318名の回答から、この線は具体的にどう引くのか。回答は何件あればよいのか。そして2022年に壁と出た500円を、2026年のスターバックスはなぜ515円で越えられたのか。手順の全部と、自社で回すときの勘所を解説します。
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