ミスドは納得、シャウエッセンは反発——同じ値上げで、一体何が違ったのか
ミスタードーナツは9月30日、ドーナツ31品目を10円値上げしました。ポン・デ・リングは税抜160円から170円、テイクアウトなら183円です。同じ日に、7種類の生地をリニューアルしています。
SNSには「また値上げか」の声と並んで、「品質維持と安定供給のための決断という説明には納得できる」「おいしくなるなら」という声が出ています。シャウエッセンのような反発にはなっていません。
前々回の記事で、私は「価値を足してから値上げする」やり方は基本的におすすめしない、と書きました。足した価値は企業が付けたい価値であって顧客が払いたい価値とは限らず、値上げの言い訳に見えてかえって反発を強めるからです。
では、ミスドはなぜ通ったのか。価値を足したから通ったのではありません。価値を足しても反発されない条件が、たまたまではなく4つ揃っていたからです。この記事はその4つを整理し、自社で価値向上と値上げを同時にやるときに、どう確かめるかを解説します。
この記事の結論
・ミスドが通った理由は、価値を足したからではない。10円・6%という文句の出ない幅で、量ではなく価格で上げ、値上げの理由をコストだと率直に言い、足した価値が顧客がドーナツに求めている本質(おいしさ)の改良だったから
・シャウエッセンはこの4点がすべて逆だった。1本あたり20%、量を減らし、理由を言わず、企業が付けたい価値を足した
・価値を足して値上げするなら、その価値を顧客が払いたいかどうかを先に測る。測り方と手順を会員限定パートで解説
何が変わったか
ドーナツ31品目(ポン・デ・リングなど):160円 → 170円(+10円、6.0%)
パイ3品目:230円 → 250円(+20円、8.7%)
飲茶4品目:340〜550円 → 360〜580円(+20〜30円、5.6%)
ドリンク4品目(コカ・コーラなど):220円 → 260円(+40円、18.2%)
リニューアルの対象は、ドーナツの生地7種類、パイ3品、飲茶4品です。ドリンクはリニューアルの対象外で、しかも上げ幅は18%と、ほかの3倍です。
リリースの書き方に、1つ特徴があります。リニューアルは「ドーナツの魅力をさらに磨く」「商品の価値向上」の文脈で書かれ、価格改定は「原材料費・物流費・人件費・エネルギーコストの上昇で、コストを吸収することが困難になったため」と、別の段落で書かれています。おいしくなったから値上げする、とは書いていません。
2025年3月の値上げは、通っている
ミスドは2022年以降、5回値上げしています。毎回10〜20円です。
2016年11月→ 108円(値下げ)
2020年1月→ 118円
2022年3月→ 129円
2022年11月→ 151円
2024年7月→ 162円
2025年3月→ 172円
2026年9月→ 183円
直近の2025年3月の値上げ(10円、約6%)の結果は、ダスキンの決算資料に出ています。2026年3月期のミスドは、既存店の客数が1店舗あたり2.0%減り、客単価が3.5%上がり、既存店売上は1.5%増えました。フードグループの営業利益は17%増で、会社は「価格改定による原価率の改善」を理由に挙げています。

客数の2%減は、誤差の範囲です。単価の上昇が数量の減少を上回り、利益が大きく増えている。値上げは通っています。今回の10円も、幅は同じです。
通った理由は、価値を足したからではない
ここからが本題です。シャウエッセンとミスドは、どちらも「値上げと同時に商品を変えた」点では同じです。違いを観点ごとに並べます。

1つ目は、幅。ミスドは1個10円、6%です。価格の変化が±5%程度なら顧客はほとんど反応しないことが分かっていて、10円はその縁にあります。シャウエッセンは、グラムでは9%でも、顧客が数える1本あたりでは20%でした。文句が出るかどうかは、顧客が数える単位での幅で決まります。
2つ目は、量を触ったかどうか。ミスドは価格を上げ、ドーナツの大きさも個数も変えていません。顧客の使い方は何も変わりません。シャウエッセンは本数を6本から5本に減らし、「家族で分ける」という使い方を変えました。前々回の記事で見たとおり、量を減らす値上げは顧客の使い方に直接触れます。
3つ目は、値上げの理由の言い方。ミスドは「コストを吸収することが困難になった」と書き、リニューアルを値上げの理由にしていません。だから「説明には納得」という声が出ます。シャウエッセンは「時代に負けてたまるか」というコピーで、実質値上げであることを言いませんでした。「実質値上げと言ってほしい」という声は、ここへの反応です。
4つ目は、足した価値の向き。ミスドが変えたのは生地の食感、くちどけ、香ばしさ、トッピングとの相性です。顧客がドーナツに払っている価値そのものの改良で、「各生地の特長的な食感はそのままに」と、使い慣れた商品を壊していません。シャウエッセンが足したのは「1本を重くして肉感を高める」で、6本を5本にする代わりの価値でした。これは企業が付けたい価値で、顧客が求めていた価値かどうかは分かりません。
4点がすべて逆です。ミスドは価値を足したから通ったのではなく、価値を足さなくても通る値上げに、顧客が求めている価値の改良を添えた。それが実態です。
私が「価値を足してから値上げ」をおすすめしない理由は変わりません。値上げと価値向上は、別々に考える。10%前後までの値上げは、価値を足さなくても通ることがほとんどです。ただ、価値向上に取り組んでいる会社が、その発表を値上げと同時にすること自体は、条件が揃えば問題ありません。問題は、足そうとしている価値が、顧客が払いたい価値かどうかを、誰も確かめていないことです。
では、それをどうやって確かめるのかを解説します。
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- 「顧客が払いたい価値」かどうかは、先に測れる
- 幅は、顧客が数える単位で決める
- 理由は、コストと言う
- 自社で価値向上と値上げを同時にやるときの手順
- まとめ
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